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『シド・アンド・ナンシー』 レビュー(感想)と考察

『シド・アンド・ナンシー』

ポスター画像出典:『Amazon

 

実に21歳という若さでこの世を去った『伝説のミュージシャン』セックス・ピストルズのベーシストであったシド・ヴィシャスと彼の恋人であったナンシー・スパンゲンの恋愛映画。だが、実際には恋愛映画というよりは、彼の伝記映画という方が近い。それだけ彼の人生がハチャメチャだから、その中にたまたま恋愛があったというだけに見える。ただ、あえてナンシーの名前をタイトルに出し、まるで彼と一心同体のような運命的な存在だったかのように見せるのには理由があって、それが映画を観れば分かるようになっている。

 

この映画で世界中でセックス・ピストルズの人気が再浮上し、当時のピストルズを知らない若い世代にも広く認知されることとなったが、その一方で「麻薬中毒者を肯定している」、「彼らを美化し過ぎだ」などの批判もあったという。だが例えば、『時計じかけのオレンジ』の宣伝コピーを、

 

『レイプとウルトラ暴力とベートーベンがオレの生きがい。』

 

というセンセーショナルなものに作り上げたスタンリー・キューブリックに対し、当然批判の声は上がった。この映画に触発され、犯罪に走る若者が増えたのだ。だがスタンリーはこう答えた。

 

このような話も知る冷静な観点を持つ私からすれば、これは別に『麻薬中毒者を肯定している』のではなく、むしろ『中毒者の末路は悲惨だ』と主張している。いや、というか、『ありのまま』を映しているだけであって、否定も肯定もその人の受け取り方次第だ。多分そうした人達は、その『影響された人達』のことを気にしてそう言っているのだろう。

 

若くして死ぬことが格好いい

 

こういう概念を、ロックの世界から教わった・・と思い込んだ人が刹那的で無責任な人生に走る為、それを抑止するためにそう言ったのだろう。確かに、ロックというのは芸術に近く、『常識からいかに離れるか』ということを意識しているように見える。それならば、このようにして常識を持った大人たちから『不謹慎だ』と眉をしかめられるのは、彼らの生き方が成功していることになる。

 

ただ、よく目を凝らして見てみると、シド・ヴィシャスとて悩んでいる。悩んで、迷って、むしろ後悔している。それを誤魔化すためにドラッグをやり、正当化する時間を延長させる。すると、傍から見た人は、彼自身が本当は『誤魔化している時間が長いだけ』なのに、『格好いい時間を多く過ごしている』と錯覚する。

 

どちらにせよ、彼がなぜ『伝説のミュージシャン』となったのか、なぜ21歳という若さで亡くなったのか、そしてナンシーとの関係はどういうものだったのか、というこの内容は、彼の名曲『マイ・ウェイ』と共に聴けば、『曲解』するだろう。

 

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