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『喜望峰の風に乗せて』 レビュー(感想)と考察

『喜望峰の風に乗せて』

ポスター画像出典:『Amazon

 

 

1968年にヨットでの単独無寄港世界一周レースに参加した実在のビジネスマンであるドナルド・クローハーストの実話映画。やはり実話というのは圧倒的に見応えがある。フィクションにするならスティーブン・キングやスピルバーグのような演出が必要だ。だが実話なら波乱に満ちているだけでもうそこに人生の教訓があり、決して無下にできず、価値を下げることはできない。

 

断じてできない。評論家ができるのはせいぜい作品の評価だけだ。人の価値を下げるようなことをする人間にまともな人間はいない。もっとも、ナポレオンヒトラーのような暴君の話なら別だ。ただ、今回はその類とは全く無縁の、家族思いの優しい父親が主人公である。であるからしてコリンファースは適役で、感情移入しやすい。

 

最初はタイトルが地味だし、あまり期待はしていなかった。だが、観始めると徐々にこの主人公が『追い込まれていく』ことが分かり、(これは単なるヨット乗りの話じゃない)と、心配になってくる。つまり完全に作品に惹きつけられていくのだ。一体彼はどうなってしまうのかと、目が離せなくなる。

 

私は鬱病の本も20冊以上持っているが、よく言われるのが『真面目で完璧主義者な人』が鬱病になりやすいということである。だが、そのどの本でも私と同じ境地に辿り着いたものはないが、

 

『本当に真面目で完璧主義者なら、この世の真理に気づくはずだ』

 

という事実が存在する。諸行無常の流動変化も、死も病も苦痛も、執着が罪なのも、利己や無知が罪なのも、間違いだと気づくはずだ。そして一つ一つパズルを組みあわせて真理という実態のない、しかし断固として永遠に威厳を放つ法則を目の当たりにした時、人はむしろ、安堵する。

 

ただ、『真面目で完璧主義者』というのは本来、『万人に使う言葉』だ。つまり、往々にして人間というのはブッダではない。となると彼もまたそのうちの一人で、どこかでパズルのピースを間違えてしまった遭難者なのだ。