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『マン・オン・ザ・ムーン』 レビュー(感想)と考察

『マン・オン・ザ・ムーン』

ポスター画像出典:『ヤフー映画

 

若くして癌で亡くなった実在のコメディアン、アンディ・カウフマンの伝記映画で、ジムキャリーが冒頭3分でもうこの映画が普通じゃないことを教えてくれる。純粋に笑ってもらいたいため、彼に関することやその他の事は一切言わないでおこう。とにかく、35歳という若さで亡くなったのにエピソードが濃厚である。面白い生きざまで、まるで松本人志を観ているかのような感覚さえあった。彼も

 

『既存があり、それを壊し、そこに新たな既存ができ、またそれを壊し、の繰り返し』

 

と言っているが、彼と同じ着眼点があったことだろう。

 

例えば『ドラゴンボール』は言わずもがなの伝説的な漫画だ。Zがアニメで流れていた全盛期を知る人たちで、あれが嫌いな人は、ほとんどただのひねくれものだろう。全てが揃っていたし、そのニーズに合わせて鳥山明もアドベンチャー方向からバトル方向に変えた裏事情があるくらいだ。彼はもっとアラレちゃんのようなコミカルな世界を描きたかったのである。

 

そのドラゴンボールが終わって『ワンピース』の時代が来て、その後『鬼滅の刃』になる。だが、ワンピースも『ナルト』も『銀魂』も作者はみんな鳥山明とドラゴンボールの大ファンであることはファンの間では有名だ。

 

だが鬼滅の刃になって作者が女性になり、全盛期から20年以上経った2020年頃になると、世界では女性の地位向上活動が以前よりも活発化していて、多様性が広がり、孫悟空やモンキー・D・ルフィのような『男一人で突っ走る』というシステムに文句を言う人が出るようになった。

 

ドラゴンボールを知らない世代は、知る世代から呆れられるのは当然だ。あの熱意を知らないのは単純にもったいないし、漫画界を語る時に無知と言わざるを得ない。だが、若い世代は若い世代で、『は?押し付けんなよ』ということで、なぜか頑なにその世代とドラゴンボールを拒絶しようとする。小さな社会問題として『ドラゴンボールハラスメント』という言葉も作られたくらいだ。

 

『既存があり、それを壊し、そこに新たな既存ができ、またそれを壊し、の繰り返し』

 

Dragon Ball世代は、その前にあった『あしたのジョー』や『ガンダム』、あるいは『巨人の星』などの漫画とドラゴンボールを比較したとき、比べ物にならないくらい差がある、と考える。事実、同じ舞台で生きる漫画家たちこそが、『鳥山明、大友克洋以後か、以前かだ』と言うぐらい、漫画界に革命を起こしたのだと認めているのである。

 

だが、確かに冷静になって漫画のクオリティで考えた時、鳥山明自体はもうピッコロ大魔王で漫画を終わらせたかったし、『ドラゴンボールZ』とつけた理由は、『Z以上はもうないから』ということで、フリーザ編で終わる予定だった。

 

しかし、絶大な人気で少年ジャンプの部数のほとんどを担っていたドラゴンボールは、やめることができなかった。その後、人造人間編、魔人ブウ編といくたびに、主人公の孫悟空は引退をほのめかすような動きを取るようになり、息子である孫悟飯は戦いが嫌いだったり、いつの間にか『皆が燃えたぎるバトル漫画』から遠ざかっていってしまった。

 

すべては鳥山明にある。彼はもうペンを持つことさえ嫌になるほど、バトル漫画に対して拒絶反応が出てしまっていたのだ。そうした裏事情を知らない読者は、自然消滅するようにあの漫画から離れていき、あるいは『GT』という鳥山明が関わらない『余韻』に浸って現実逃避を続けた。

 

更にそれから20年経ち、これら一切の理由を知らない世代は、単純に『ドラゴンボール』という漫画の総合得点をつけることになる。ワンピースや鬼滅の刃と比較し、完成度を見比べてみると、ドラゴンボールという漫画は総合的には、納得のいかない漫画なのだ。だからそうした事情で、ドラゴンボールを否定する世代が現れたということもある。だがもう一つはこの映画でも見られるように、

 

『既存があり、それを壊し、そこに新たな既存ができ、またそれを壊し、の繰り返し』

 

というループをなぞっているようにも見える。『Ado』の背中を押すのもそうだ。時代の代弁者であり、若者の代表のような人間はいつも熱を帯びた人気を得る。そこにあるのはある種の嫉妬だろう。大人世代に一切構ってもらえずキッズ扱いされていた時代からの脱却の為、自分たちという若い世代がこうして完全に育っているということの意思表示でもある。『いつまでもガキ扱いするなよ』ということなのだ。

 

その為に、『既存』を否定することがある。ドラゴンボールがやり玉に挙げられることが多いのは、そのループをなぞる人間の習性がひとつ、関係しているだろう。その証拠に、きちんと向き合えば若い世代でもちゃんとドラゴンボールのファンになる人もいるのに、向き合おうとすらしない人間が多々見られるのだ。これはもう無意識に自分たちの心底に渦巻く、強い力の支配があるとしか言いようがない。

 

『自分たちの世代しか肯定しない!』

 

という、若者世代によくある暴走である。私も16歳辺りの頃を思い出すと、この世界に大人などいないという錯覚さえ覚えていたものだ。身の回りの気の知れた友人だけが、自分の世界のすべてだった。

 

さて、話が長くなったが、それくらい『既存』と『それを壊す』ということについては考えることがたくさんある。それをこの若さで理解し、実際に行動に移して、批判を覚悟しながら、やり玉に挙げられながら打ち崩していって自分の世界を作り上げた彼は、天才という名が相応しいだろう。

 

 

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