ポスター画像出典:『Amazon』
この映画はヘプバーンの圧倒的な華とクオリティの高いダンスに、多くの女性が夢見るシンデレラストーリーという大筋だけじゃなく、『共感主義のフロストル教授』という存在が一つの鍵になっている。『共感主義』というのは存在しない。誰かが考えていたとしても、基本的な哲学を学んでこうした言葉と出会う人はいない。この映画独特の概念である。
ヘプバーンが演じる主人公は、フランスにて哲学的な話に花を咲かせたいと願っていて、そのフロストル教授というフロイトだか、フロストだかを思わせるような哲学の教授と話すことに喜びを見出す。フロストル教授で遠まわしに哲学の巨人に触れることからも、時代的にこれは、『共産主義』に遠まわしに触れているように見える。
1957年のこの時代、共産主義は世界の脅威になりつつあった。アメリカとソ連の冷戦は、第二次世界大戦の終結直前の1945年2月から1989年12月までの44年間続いたが、それは資本主義(アメリカ)VS共産主義(ソ連)という思想の戦いでもあった。いや、思想の戦いではなかったかもしれない。国家の帝国主義における戦略的なアプローチにすぎなかったかもしれないが、しかしとにかくマルクスが主張した共産主義、社会主義というのは、当時人々を魅了したのである。
共産主義→銀行強盗→FBI
アメリカで言うとこういう具合に人々の人気を得ていた。かなり前の段階から共産主義者がテロリズムを行ったりして注目を集め、『人々はもっと平等であるべきだ』と主張したのだ。銀行強盗は大恐慌が関係している。『俺たちに明日はない』のボニーとクライドもヒーロー視される。かつてフランスでナポレオンが混迷の時代に人々の期待を背負ったのと似ているだろう。だが、人間は単純だ。それらを取り締まるFBIが創立し、彼らが鮮やかな活躍を魅せるようになると、今度は彼らが伝説視される。
さて、ここで言う『共感主義』だが、やはり彼女の思い入れの感じ、そして、まるで宗教に夢中になってしまっているかのように『横道に逸れる』イメージで展開される流れは、当時のアメリカの時代背景を描いているのかもしれない。
『共産主義思想に流されるな!』
そんな当時のアメリカの様子を思い浮かべながら、様々な含みを楽しみつつヘプバーンの魅力的なダンスなどを見ていく。
また、彼女が熱望したその教授などがいる場所では哲学的な議論を行う人々の姿が映し出されるが、当時フランスで『哲学カフェ』というのがあった。哲学者マルク・ソーテ(1947年–1998年)がフランスのパリで創立したのがそれだが、「カフェ・デ・ファール」というそのカフェでは、映画と同じようにそういう談合が行われていた。また、『マザー2 ストイッククラブ 元ネタ』では一件も出てこないが、恐らくあのゲームをやっている人はそのクラブを思い出しただろう。哲学するだけの場所が存在したのだ。
やはりヘプバーンの映画は、ただ美しい美女がその容姿にかまけて『ドヤ』とその一本鎗で突いてくるのではく、いつでも教訓性と驚きに満ちていて、素晴らしい。