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『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』 レビュー(感想)と考察

『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』

 

17世紀のチューリップ・バブル時代のオランダの首都、アムステルダムを舞台に、トム・ストッパードで、モガーの小説『チューリップ熱』(原題:Tulip Fever)を脚色。モガーはフェルメールの絵画から着想を得ており、絵画の世界を小説にしようと執筆した。

 

この映画は2,500万ドルの予算に対し、世界での興行収入は800万ドルとなっていて大赤字なのだが、では駄作なのかというと、歴史的には非常に貴重な価値ある映画となっている。

 

元々これは、ジュード・ロウ、キーラ・ナイトレイ、ジム・ブロードベントが出演、ジョン・マッデンが監督、スティーヴン・スピルバーグとドリームワークスが製作を務める予定だったことを考えても、内容はスピルバーグが目を付けるほどのものだということがわかる。

 

まず、『世界の覇権の推移』を見てみよう。

 

ヨーロッパの覇権の推移

STEP.1
アッシリア
紀元前7世紀の前半~紀元前609年。オリエントの統一王朝を成し遂げるが、アッシュル・バニパルの残虐性のせいで帝国が破綻する。
STEP.2
アケメネス朝ペルシャ
紀元前525年~紀元前330年。キュロス、カンビュセス2世、ダレイオス1世また統一し直し、インド北西部からギリシャの北東にまで勢力を伸ばす。
STEP.3
アルゲアス朝マケドニア王国
紀元前330~紀元前148年。フィリッポス2世がギリシャを、アレクサンドロスがペルシャを制圧。
STEP.4
ローマ帝国
紀元前27年~1453年5月29日(完全な崩壊)。カエサルが攻め、アウグストゥスが守る形で『ローマ帝国』が成立。
STEP.5
モンゴル帝国
1200~1300年。チンギス・ハンが大モンゴルの皇帝となり、5代目フビライ・ハンの時にはアレクサンドロスよりも領土を拡大。
STEP.6
オスマン帝国
1453年5月29日~。かつてのローマ帝国は、『神聖ローマ帝国』と『ビザンツ帝国』の東西分裂をしていて弱体化していた。1453年5月29日、メフメト2世がビザンツ帝国の首都コンスタンティノープルを征服。
STEP.7
スペイン帝国
1571年、スペインは『レパントの海戦』であのビザンツ帝国を滅ぼしたオスマン帝国を破り、地中海の制海権を奪取(正確にはまだオスマン帝国に制海権があった)。更に、『ポルトガルの併合(1580年)』で『スペイン帝国』は最盛期を迎える。
STEP.8
オランダ
1588年、『オランダ独立戦争』、『アルマダの海戦』に勝ったオランダは、急速な経済成長を遂げ、アムステルダムは世界の貿易・金融の中心地となり、スペインに代わって世界貿易をリードする『栄光の17世紀』を迎える。
STEP.9
イギリス
1677年、1651年から続いた『英蘭戦争』の結果、覇権がオランダからイギリスに渡る。

 

基本的に『覇権』というのは『帝国』を作って世界に幅を利かせたことが影響していて、例えばローマ帝国が幅を利かせている時、では遠い日本ではその影響があったかというと、ほとんどないわけだ。したがって、世界の覇権の推移は『ヨーロッパの覇権の推移』という形でまとめられることになる。この辺りが世界の中心として考えられ、常にエネルギーの変動が激しかったのである。

 

ざっと見ていったときに、ローマやイギリスなどの時代の映画はある。マケドニアもアレクサンドロス三世だし、クレオパトラもローマ時代で、『エリザベス』がスペイン、イギリス辺りの時代で、モンゴル帝国の場合はチンギス・カンの映画『モンゴル』がある。だが、オランダが覇権を取ったわずか100年足らずのこの時代の映画が存在していないのである。

 

上記にある様に、

急速な経済成長を遂げ、アムステルダムは世界の貿易・金融の中心地となり、スペインに代わって世界貿易をリードする『栄光の17世紀』を迎える。

 

これが当時のオランダの勢いだ。では一体なぜオランダが覇権を取ることができたのか。そして、なぜその覇権は長続きしなかったのか。この時あった『チューリップバブル』という事実は、映画『ウォール街(ストリート)』にも強く影響するほど、非常に教訓性の高い内容となっているのである。

 

経済学の巨人と言われたガルブレイスは、1636年のチューリップ狂の経験以来、 何も変わらないある法則を見極め、こう言っていた。著書『バブルの物語』にはこうある。

『個人も機関も、富の増大から得られるすばらしい満足感のとりこになる。これには自分の洞察力がすぐれているからだという幻想がつきものなのであるが、この幻想は、自分および他の人の知性は金の所有と密接に歩調をそろえて進んでいるという一般的な受け止め方によって守られている。』

 

売れてないもの、多くの他人から評価されていないものがあるからといって、そこにあるものが粗品とは限らない。