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『フロム・ヘル』 レビュー(感想)と考察

フロム・ヘル

ポスター画像出典:『映画.com

 

原作自体は19世紀末に起きた「切り裂きジャック」事件を題材としていて、内容のほとんどがは厳密に史実に基づいているが、この映画版は脚色が加えられている。ジョニー・デップは同じような伝説的な事件を題材にした映画『スリーピーホロウ』にも出演していて、その翌年に公開されたことを考えると流れがあったのだろう。私は今まで観た映画を似たような作品で並べてまとめているが、やはり同じような種類の映画に同じキャストが出ていることが多い。それは、映画を観た関係者が配役を決める際にそれに影響される可能性があることを意味している。

 

実際に起きた事件ということで時代背景や登場人物はリアルである。ヴィクトリア女王の統治する時代に中国(清)とインドとイギリスの三国で『三角貿易』が行われ、イギリスは銀を回収する。綿織物をインドに売りつけて、代わりに阿片を中国に流して依存症にさせる。清の最高幹部がアヘン中毒になったおかげで、清がアヘンの輸入を公認するわけだ。そしてそのせいで清にあった銀がイギリスに大量に流れてしまうことになる。イギリスの作戦勝ちということである。

 

だが、それは歴史の断片的な表層。実際、阿片が世界の人々の生活をどのように変えたかを考えるのには、『グリーンデスティニー』、『ワンスアポンタイム・イン・アメリカ』、またあるいはこのフロムヘルなんかでもその様子をうかがうことができる。

 

(ここでもアヘンが出てくるか。阿片というのは中国人だけじゃなく、当時、世界の隅々にまで蔓延し、秘密裏にそれを吸う人々が続出したのだ。)

 

そういう発想が頭をよぎることになる。そこまで考えた時、歴史的未解決事件であるこの「切り裂きジャック」の真相とは、いかなるものだったのか。それは例えば今回の映画でまとめたような方向だったかもしれない。それは、我々がヴィクトリア女王を『大英帝国の最盛期』として歴史で学んで認識することと似ている。それはとても断片的である。しかし実際に植民地となったインドその他の国々の人生を具体的に目の当たりにしたとき、あるいはこの阿片問題などを考えた時、我々は彼女らの帝国に差す後光に禍々しさを覚えることになる。

 

その禍々しい後光から生まれた怪物。それが『地獄から来た(フロムヘル)』魔物だったのかもしれない。