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『J・エドガー』 レビュー(感想)と考察

J・エドガー

 

 

あの『FBI』を創った男、ジョン・エドガー・フーヴァーの物語である。誰もが知る超有名組織ができた経緯を見ておいて損はないだろう。1960年代、黒人公民権運動の盛り上がりを苦々しく思っていたFBI長官のフーヴァーは、キング牧師宅の盗聴を命じる。この部分で、キング牧師の物語と彼はつながっていることがわかる。彼にはある噂があり、それを伺わせる奇妙なワンシーンがこの映画で描かれている。

 

 

※二回目

初めて見た時は、イーストウッド映画がどれだけ芯に迫っていて面白いかとか、フーバーが生きた時代の歴史について無知だったため、全くこの映画を過小評価していた。『表現されたものが現実のようすとそっくりに見える』という意味の『真に迫る』という言葉と、『物事の核心に迫る』という意味の『芯に迫る』という言葉の両方が彼の映画にふさわしい。ちなみに、後者は私の造語である。

 

1919年に、共産主義がテロ行為を行う。そこに至るまでには経緯があって、そうした自由を求める思想と、それを封じ込める思想との衝突があり、後者を指揮する上層部の人間に、テロ行為が行われたわけだ。この時は、司法長官アレキサンダー・ミッチェル・パーマーという人物が対象だった。

 

『パーマー・レイド(襲撃)』と呼ばれたその強制捜査に反抗する形だったのだろう。この時代は新しいことに挑戦し、未踏未達の領域に踏み込む、いやあるいは、アメリカの『最初の考え方』を強調する自由を主張する人々がヒーローに見えたという。

 

 

先にそのヒーローの図式を推移でみるとこうなる。

 

共産主義→銀行強盗→FBI

 

こういう風に当時の人気は推移していったという。簡単に言えば、この共通点は『誰にも縛られず、自由にふるまう強者』だ。現代で分かりやすい『ヒーロー』も同じだろう。アメコミのヒーローでも何でも、その共通点は同じことである。日本のヒーローでも同じだ。悟空でもルフィでも、同じ共通点を持っている。

 

 

銀行強盗が流行したのは『大恐慌』という未曽有の不遇の時代が影響している。そうでもしなければ人は生きていけなかった。そしてそれを行動にしてやってのけた『ボニーとクライド俺たちに明日はない)』のような人物たちが、英雄視されたのである。

 

 

なんと『デリンジャーパブリック・エネミーズ)』のような凶暴な強盗でさえそうだったというのだから、それだけ大変な時代だったことが分かるわけだ。ちょうど、ナポレオンのそれと同じである。

 

John Dillinger mug shot.jpg

 

1800年頃、ナポレオンはフランスの皇帝になるわけだが、彼が国のトップに選ばれたのは、1793年、ルイ16世とマリー・アントワネットはギロチンによって公開処刑されてしまったからだ。

 

ギロチン台に引き立てられるアントワネット(ウィリアム・ハミルトン画)

 

その後、数人の政治家がフランスのトップに就くも、どれもその当時の狂乱にも似たフランスをまとめるだけの器量は持ち合わせていなかった。そこにナポレオンが登場したわけだ。

 

 

ナポレオンがしたことなどただの暴君なのに、彼が当時の人々に指示され続け、英雄されたのは、同じ理由があったからである。同じく、第一次世界大戦の傷跡に苦しんだドイツがヒトラーに期待したのも同じことである。こんな風に、少し勉強してからこの映画を観ると全く違う景色が見えてきて、奥行きが激増して楽しかった。

 

  1. リンドバーグ
  2. マッカーシー
  3. ケネディ
  4. ルーズベルト夫妻
  5. アル・カポネ
  6. ハルノート

 

といったキーワードや、それぞれの情報を知っていると更にその奥行きと階層は広がり、面白さが何倍にも膨れ上がる。

 

 

このように、フーバーという人物を通して考えることは膨大にあるが、知識が無いと『単なるマザコンの変態おじさん』に見えてしまうので、必ずこの映画の価値を見逃さないようにしたい。